導入事例

AI人材不足の切り札に!コンペで“個の才能”を顕在化させる「SIGNATE」という仕組み

AI Start Lab 編集部 2021.3.19
AI/データ分析人材をエンパワーする国内唯一のプラットフォーム「SIGNATE」。人材育成、開発、採用のサービスを展開し、個人のキャリアアップや活躍を後押ししている。現在、SIGNATEの会員数は約4万人にのぼり、優秀な人材の獲得を狙う企業の利用も増加しているという。

ビジネスフィールドにおけるAI/データ分析のプレイヤー不足が叫ばれる中、SIGNATEはどのようなアプローチで人材ネットワークを構築しているのか。株式会社SIGNATE 代表取締役社長 齊藤秀氏に訊く。

「SIGNATE」は個人の才能を引き出すプラットフォーム


最初に、SIGNATEについて、簡単に説明しておきたい。SIGNATEは個人と企業が利用できるプラットフォームで、【育成】【開発】【採用】の3つの柱がある。具体的には、次の通り。


【育成】「SIGNATE Quest」…個人がAI/データ分析を実践的に学習できるコンテンツを用意。
【開発】「SIGNATE Competition」…テーマ別に用意されたAI開発コンペで企業課題と人材育成を同時に解決。
【採用】「SIGNATE Delta」…個人が公開している求職者レジュメをもとに、企業がスカウティングできるサービス。データサイエンス職やITエンジニア職などAI/データ分析人材と企業のマッチングを支援。

とりわけ、国内で圧倒的優位を誇るのが、「SIGNATE Competition」。その特徴について、齊藤氏は次のように話す。


「まず、弊社の社員が企業や行政の課題をヒアリングして、コンペの設計と運用を支援します。そして、SIGNATEの会員約4万人に向けて、コンペを告知。投稿されたAIモデルを、あらかじめ設定した評価方法に照らし合わせ、順位を確定させます。得られた成果物のソースコードやIPの権利は、企業や行政が賞金で買い取り、弊社がインテグレーションのお手伝いをします。つまり、約4万人を対象にした賞金獲得ゲーム、といったところでしょうか」(齊藤氏、以下同)

企業や行政がベンダーに開発を依頼するのではなく、言わば個人の才能にお金を懸ける仕組みである。個人にとっては、大きなチャンスであることは間違いないが、企業側のメリットも充分あるという。

「企業や行政がAI開発を考えたとき、ベンダーに声をかけてAIモデルを提案してもらうことが一般的です。しかし、検収する側も、品質の目利きが難しく手探りの状態。PoCばかりして、“PoC貧乏”になってしまう。それなら、我々のようなプロが介在した、オープンイノベーション型のコンペを活用したほうが、優れたAIモデルを獲得できる確率が高まり、投資効果も上がるのではないかと考えています」

コンペに参加する企業の課題は多種多様。それ故に、コンペのお題も、たとえば「賃貸物件の家賃予想」「豆腐の需要予測」「魚群探知アルゴリズム」など多彩だ。

ちなみに、SIGNATEの会員のうち、約75%が企業のIT部門や研究所で働く社会人、約25%は学生。賞金獲得の目的もさることながら、自分のスキルを発揮できる場を求めて参加してくるため、意欲的な人物ばかりだという。AIモデルの投稿回数は1,000を超えるものもあり、通常の開発では難しい規模で改善が繰り返されるため、精度の高い成果物が生まれるのだという。

実際にビジネスへの活用を見据えたお題にチャレンジできるため、参加者にとっては自分の知識やスキルがビジネスに通用するか、腕試しする貴重な機会だと言える。

「本などでは“AIモデルの作り方”は書いてあっても、“美味しい作り方”は書いていません。本の内容をマネするだけでは、実用とのギャップがあり過ぎて使い物にならないケースが少なくないんです。だからこそ、実際に企業が抱える課題にチャレンジする過程で、知見を得ることが大事なのです」

また、登録者はコンペの戦績やAI学習講座の受講歴などに応じて、「Grandmaster」を頂点にした称号がつけられ、実力が可視化される。これは、スカウティングサービスの「SIGNATE Delta」の求職者レジュメにも反映されるので、転職にも有利に働くことになる。

コンペで能力を競う必要性を第3次AIブームで実感



齊藤氏がSIGNATEの前身となる機械学習コンペティションサイトを立ち上げたのは、2013年12月のこと。折しも国内では、AIが東大入試の模擬試験に挑んだことが、大きな話題を呼んだ頃である。このAI黎明期に、齊藤氏はいずれAI人材が不足することを見越して、行動に移していた。

「2010年に世界最大級の画像データベース『イメージネット』を使って、画像認識のチャレンジをする世界大会がスタート。2012年にディープラーニングを使ったチームが同大会で圧倒的な高精度で優勝したことで、第3次AIブームが本格的に世間に広がりました。同じ仕組みをビジネスにした『Kaggle』もその頃には注目されはじめていました。こうした流れを受けて、今後は日本でもAIやデータサイエンスの分野で、コンペのビジネスモデルが価値を生む時代が来ると直感したんです」

Kaggle の参加者は、Kagglerとも呼ばれ、好成績を収めた参加者は、企業から引く手あまた。“Kaggler採用枠”を設けている企業もあるほどだ。齊藤氏自身もKaggleに参加した経験を持つことから、コンペの仕組みを日本で展開し、優秀なAI/データ分析人材を発掘するべく、SIGNATEというプラットフォームを開発したそうだ。

「日本はAI分野で遅れている、とよく言われています。事実、遅れている部分もあるでしょうが、人材の技術や能力のレベルは、世界と大差ありません。むしろ問題なのは、AIをはじめとする、データ化やデジタル化を受け入れる社会の問題。奇しくもコロナ禍で、デジタル化の遅れによる非効率な業務が浮き彫りになりました。社会の仕組みがデジタル化と相性が悪い設計になっているので、能力があっても使う場所がない。これこそが問題であり、社会全体で見ても甚だしく機会損失しているように思います」


重厚長大な企業もコンペを開催! 新幹線の運転士がAI/データ分析人材に


日本の行政や企業のDXが牛歩なのは、誰の目にも明らかだ。しかし、変革が起きていないわけではない。いわゆるJTC(Japanese Traditional Big Company/伝統的な日本の大企業)に属する、西日本旅客鉄道株式会社(以下、JR西日本)でも、齊藤氏が「かなりすごいオープンイノベーション」と認めるコンペがSIGNATEで開催された。

JR西日本が開催したコンペの主旨は、「新幹線の着雪量予測のAIモデル開発」。北陸新幹線は、冬季になると車両に付着した雪を落とす作業が必要になる。これまでは、気象会社の着雪量の見込みをもとに、翌日の雪落としが必要かどうかを判断していた。

しかし、精度が低く、実際には雪が付着しておらず、無駄足に終わることも少なくなかった。そこで、予測精度を上げるため、AIモデルの開発を検討するべく、ベンダー約10社に提案を受けるも、実力を判断できなかった。そこで、「SIGNATE Competition」を利用して、ベンダーにも匿名アカウントで参加してもらうかたちで、コンペを開催した。

着雪量予測AIダッシュボード。コンペののち、AIモデルの実際の運用が行われた

社員の参加も募集し、社内外あわせて400名近くがコンペに参加。上位3位までのソースコードが譲渡された。驚くことに、自動改札機のメンテナンス部署の社員と、新幹線の運転士が、ベンダーの成績を上回り、3位と8位に入賞するという結果に。二人とも趣味でデータサイエンスを学んでいたという。

その後、二人はデータソリューショングループに移動し、AIモデルの構築やビジネス実装に取り組んでいるそうだ。まさに、齊藤氏が目指す、優秀なAI/データ分析人材を発掘する好事例と言えるだろう。


「このコンペによって、社内に隠れた才能が存在していたことが明らかになりました。彼らは評価されて、異動になり、いま輝いているわけです。同じような“宝の持ち腐れ”は、多くの企業で起きていることだと思います。才能のあるエリートたちに、退屈な仕事をさせ続けていいのか、それは自社の利益になっているのかを考えるべきです。優れたAIプログラムを手に入れても、事業にインストールして効果を出せなければ意味がありません。AIは作って終わりではなく、そこが始まりなのです。真のAI人材の価値は、純粋な技術力だけではなく、実用まで追求できるかにあるのです」

そもそも、なぜ多くの人がコンペに集まってくるのか。それは、自分たちの能力を発揮する場所も仕事もなく、飢えているからだと齊藤氏は言う。

「社内に仕事が潤沢にあり、バリバリ働ければいいわけですが、それができない。よく大企業は、『うちはAIやデータを扱う部署がないから無理』と言うのですが、最近のIT技術者は、終身雇用を前提にしてないので大丈夫ですよ、と(笑)。さらに言えば、デジタル化一本で勝負するかどうかはおいておくとして、デジタルを使わなくていいの?と聞きたい。画像認識や言語処理など人間の基本的能力において、AIはすでに人間の能力を上回っています。それを無視したビジネスを続けるのは勝ち筋ではありません。じゃあ、しっかり使っていこうとなったときに、大事なのは、社内外に存在するAI/データ分析人材の才能を認知し、評価して、登用することです」

コロナ禍を契機に、急速に進むデジタルへの移行。これを不可逆なものとし、社会を前進させるためには、AI/データ分析人材の活躍が望まれる。その人材を育て、競い合わせ、新たなキャリアへとつなげているのが「SIGNATE」だ。Society5.0の社会が間近に迫るいま、SIGNATEがニューノーマルな未来を創るプラットフォーマーの一員であることは、間違いなさそうだ。

取材・文=末吉陽子
撮影=齋藤 葵
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WRITTEN by

AI Start Lab 編集部

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