導入事例

稟議の“差し戻し地獄”から解放!NTTの独自技術×AIが事務処理のストレスを減らす

AI Start Lab 編集部 2021.3.30
生産性向上の観点やリモートワークの推進により、社内の間接業務を抜本的に見直しはじめた企業も少なくないだろう。

そうした改善活動の一助になるのが、NTTテクノクロスが開発した「BizFront/SmartUI Decision Manager(ビズフロント スマートユーアイ デシジョン マネージャー)」。AI技術の活用により、稟議や申請など、社内手続きに必要な文章の作成をサポートするソリューションだ。

社員の暗黙知に支えられがちな間接業務。そのデジタル化を叶える改善ツール、ということで、2021年2月のリリース以降、問い合わせが急増しているという。どのような技術を活用しているのか、開発に携わったメンバーに聞いた。

社内に存在する膨大なテンプレートからAIが候補を提示


開発プロジェクトを率いた安田氏

まず、話を伺うのは「BizFront/SmartUI Decision Manager」の開発を牽引した、NTTテクノクロス 戦略ビジネス特区 AI戦略チーム/EXプロジェクト イントレプレナーの安田航(やすだ・わたる)氏。同製品の特徴について、次のように説明する。

「BizFront/SmartUI Decision Manager」は、社内の事務処理の際に、企業独自のシステムに合わせて書き方やルールを自動で提案するツールです。特徴は大きく2つ。1つは申請システムに入力したキーワードをAIが検知し、書こうとしている内容に近いテンプレートの候補や注意すべきルールを提示すること。そして、もう1つは、基幹システムを改修しなくても使いやすい入力画面を“上書き”して、UIを改善できることです」(安田氏)

BizFront/SmartUI Decision Managerのサービスイメージ

1つ目の特徴として安田氏が挙げる、キーワードの検知とテンプレート候補、ルールの提示にあたっては、同社が開発した文章解析AIを導入。これにより、書き方の参考になるテンプレートをイントラから探し出したり、社内の“物知りさん”にどのルールを参照すればいいかを確認したりする手間を削減できる。

しかし、開発を進めるうえで必要な元データの整理には、“社内手続きに詳しい人”の力添えが必要なことに気づいたという。

「最初は、社内手続きに使っているすべてのテンプレートをAIで分析して、新たに最大公約数的なテンプレートを作成しようと考え、実験してみました。しかし、そもそものテンプレートが間違っている場合もあり、正しいものと、正しくないものが混在してしまう結果に。そのため、テンプレートの元データの整理には、マンパワーが必要だろうという結論になりました」(安田氏)

そこで安田氏は、経営企画部の前野芙美(まえの・ふみ)氏に協力を依頼。前野氏は、普段コンプライアンスや内部統制の確認業務を担当しており、言わば“社内手続きに最も詳しい人“である。その前野氏は、稟議などの文章作成の難しさについて、次のように話す。

内部統制を担当されている前野氏

「申請する内容によって、意識しなければならない社内ルールや会計基準、法令が異なるため、何に注意して申請文章を作成すればいいのか分からず、時間をとられるケースが多いと思います。特に新入社員や若手社員などは、社内業務に慣れておらず、何をどうしたらいいのか、誰に相談したらいいのか分からないものです。

さらに、コロナ禍以降、リモートワークが導入され、隣の席の人に気軽に聞く、ということができません。稟議などの文章作成は、定型業務のようであって、実は人の知見が必要な部分。そのため、『調べる手間がかかって憂うつだけど仕方ない業務』という認識の社員がほとんどだと思います」(前野氏)

1つの申請に、様々なルールが関わってくる。それならば、そもそもルールを減らせばいいのでは、と思うところだが、そうは行かない事情があるようだ。

BizFront/SmartUI Decision Managerのシステム開発をメインで担当した、生産技術革新センター エンジニアの山下城司(やました・じょうじ)氏は言う。

開発を担当したエンジニアの山下氏

「いろいろな企業にヒアリングをしたところ、従業員数が1,000人規模を越える企業になると、テンプレートの数を大別しただけで100種類をゆうに超えることが分かりました。各社の状況を整理するにつれ、ルールの複雑さとテンプレートの多さに圧倒されてしまったのが正直なところです。もちろん、きちんと取捨選択することも必要かもしれませんが、組織が大きいと一定以上は減らないことも考えられます。それならば、まずは自動化で作成の手間を省くことが先決だろうと思います」(山下氏)

基幹システムをいじらずに「画面を上書き」できるNTTの特殊技術


ちなみに、安田氏はBizFront/SmartUI Decision Managerの開発に際して、社員が稟議書の作成にどれくらい時間をかけているのか、PCに計測システムをインストールしてもらったところ、短い人で10分、長い人だと3時間と、かなりの差があったという。同時に、作成時間が短い人の申請を受けた側の人は確認時間が長く、差し戻すケースが多い、ということも判明したそうだ。

そこで、文章のテンプレートと参照すべき法令やルールを関係部署の人が自由に更新できる仕組みを採用。最新かつ正しいテンプレートのサジェストと調べる手間を減らす機能を充実させることで、作成者と確認者、双方の負担軽減を目指すことにした。

また、もう1つの特徴として安田氏が挙げた、基幹システムの改修が不要な「UI拡張技術」。これは、NTTアクセスサービスシステム研究所の独自の技術だという。

「社内手続きの申請を基幹システムに紐づけている場合、改修に莫大なコストと時間が必要です。しかし、入力画面の仕様が古かったり、使い勝手が悪かったりすると、業務効率化の妨げになります。そのジレンマを解消できるのが『UI拡張技術』です。Web のブラウザのシステムであれば、既存の基幹システムを改修せず、各パソコンにシステムをインストールするだけで、新しい画面を上書きするかたちで、UIを改善することができます」(安田氏)

では、BizFront/SmartUI Decision Managerを導入すると、どれくらいの業務効率化が期待できるのだろう。

「当社で1354件の申請を検証したところ、約4000時間の削減が確認されました。1件あたりに換算すると、平均1時間から3時間を減らすことができた計算になります。また、社員一人ひとりの負担が減るだけではなく、確認作業にかけるバックオフィスの労力も減ることが分かりました。どの企業もコンプライアンスが厳しくなる昨今、申請関連のルールは厳しくなる一方ですが、いずれ限界を感じるときが来るはずです。BizFront/SmartUI Decision Managerは、そうなる前の打ち手として、活用に値するソリューションだと考えています」(安田氏)

現在、実務でBizFront/SmartUI Decision Managerを活用する前野氏は、導入後の手応えを次のように語る。


「私を含めてですが、BizFront/SmartUI Decision Managerを使うようになってから、申請の文章を書くのに悩まずに済むようになったとか、すぐに起案ができるようになったという声をよく聞くようになりました。たとえば、社内ルールや法令に違反していないかをチェックしたいときも、参照先が自動で提案されるので、どこを見たらいいのかすぐに分かります。それにより、制度主管の組織に確認の電話を入れることが、ほぼなくなりました。また、上がってきた申請の精度が高いせいか、チェックの負担も減った実感があります。

さらに、直したいところや更新したい内容がリアルタイムで反映されるのも、大変助かっています。これまでは、システムをちょっと改善するのにも、数ヵ月かつ数百万円掛かることも少なくなかったので、時間とコストの面でもメリットが大きいです」(前野氏)

ミスがミスを呼ぶ。間接業務の「負のスパイラル」を断ち切りたい


売上に直接結びつかない間接業務は、IT投資がないがしろにされがち。だからといって、手間がかかるだけの無駄な業務を放置したままでは、いつまで経っても働き方改革は進まない。社内の申請業務に関して、安田氏は次のように考察する。

「社内のルールは、とても複雑なので、事務処理のミスの要因になります。しかし、ミスをしたら、さらに再発防止策が必要になり、新たなルールやチェックリストが作られます。そして、社内ルールがますます複雑になる。つまり負のスパイラルが永遠に続いてしまうわけです。ちなみに、私がヒアリングした企業の中には、一週間に一回チェックリストが増えているケースもありました。そうなると、もはや誰もキャッチアップできません」(安田氏)

間接業務の改善において、BizFront/SmartUI Decision Managerをファーストステップだと捉える安田氏は、最終的には煩雑な事務処理の業務プロセスを変えたいと話す。


「私自身、ITコンサルタントとして、さまざまな企業の業務プロセスを可視化し、整理して、“いい姿”に導く仕事をしてきました。しかしながら、従来この作業にはとてもパワーがかかり、これはもう人力では絶対に無理だ、と感じることもありました。ただ、技術開発が進んだいま、文章解析AIの活用で実現できることが多いと感じています。

申請にまつわる文章は、社内のイントラなどにデータとして存在しているはずです。今後はAIなどの技術を活用して、それらのデータを収集して整理するシステムを作ることが我々の仕事。複雑になってしまった業務プロセスや社内ルールをちゃんと整理整頓できるシステムを作っていきたいと考えています」(安田氏)

間接業務の無駄を省くことで、社員の労働時間をコアワークに集中させることができる。日本企業の生産性低迷が続く中、BizFront/SmartUI Decision Managerのような“地味だけど凄い”システムの活用は、人財という資産の最適化につながり、ひいては企業の競争力強化に結びつくのではないだろうか。


取材・文=末吉陽子
撮影=砂田耕希

BizFront/SmartUI Decision Manager
https://www.ntt-tx.co.jp/products/bizfront/sui/dm/

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AI Start Lab 編集部

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