導入事例

偽ブランド品をAIで鑑定!コメ兵が開発したリユーステック「AI真贋」が目指すもの

AI Start Lab 編集部 2021.8.12
日本最大級のリユースショップ「KOMEHYO」を展開する株式会社コメ兵は、ルイ・ヴィトンなどのブランド品の買取時に、精度99%で本物と偽物を判別する人工知能AI真贋(しんがん)を開発した。

鑑定現場へのAI導入により、巧妙な偽物の排除、鑑定士の作業負担の軽減、顧客接点の強化などを目指している。

新しいテクノロジーの活用で、安心できるリユース市場の形成を目指す同社に、AI真贋の開発背景や利用方法、今後のビジョンについて詳しく聞いた。

開発のきっかけは着物の傷をチェックするAI技術


「AI真贋」の開発を牽引したのは、(当時)経営企画本部長などを務めていた山内祐也氏。ブランド品の鑑定に関して、かねてから次のような課題を感じていたという。

お話をうかがった、コメ兵HD取締役兼 K-ブランドオフ代表取締役 山内祐也氏

「我々は中古ブランド品の買取販売業者の最大手として、AI真贋の開発前からトップクラスの真贋鑑定力を有していました。それでも、偽物の精度は年々巧妙になり、鑑定士は慎重になり過ぎるあまり、真贋判定に時間を取られ、接客に集中できないケースが少なくありませんでした。さらに、ブランド品は種類が膨大であるため、熟練鑑定士と新人鑑定士を比べると判定スピードに差が出るという課題も抱えていました」(山内氏)

コメ兵には鑑定士が約360人在籍しており、全員徹底した教育を施されたうえで現場に出ている。しかし、実際には“長年の経験が物を言う”場面も少なくないという。こうした課題の打開策として、何らかのテクノロジーを活用できないか模索していた山内氏は、ある画像判定技術の存在を知る。

「着物の販売店が反物の細かな傷をチェックするため、AIによる画像判定技術を導入したと耳にしました。もしかするとブランド品の真贋判定にも活用できるのではないかと思い、上層部に提案したところ挑戦してみようということになり、開発をスタートしました」(山内氏)

外部のAI開発企業とタッグを組み、半年かけて「AI真贋」を独自開発。このシステムによって実現できることは次の通りだ。


1. AI型番判定


「AI真贋」のアプリをインストールしたスマートフォンなどのカメラ付き端末を使い、アイテムを正面から撮影すると、アプリ上でサイズ違いなどの類似品を含めて約12モデルが表示される。

鑑定士は、その中から該当するモデルをタッチすると、情報がアプリに自動入力される。これにより、鑑定対象のモデルを特定する際のスピードアップが図れる。


2. AI真贋判定


マイクロスコープを使って、アイテムの真贋の違いがあらわれる箇所を撮影する。撮影した画像をAIが自動で解析し、真贋を判定。結果は「REAL=基準内」「HOLD=保留」「FAKE=基準外」の3パターンで表示される。

これにより、人間の目では判断がつかないような部分も含めた判定が可能になる。

AI開発に必要な精度の高い教師データを実現させたのは、ベテラン鑑定士の「匠の目」


「AI真贋」を開発するにあたり重要なポイントになったのは、教師データの存在である。

AIで画像判定をするには、判定のもとになる画像が必要だ。しかし「この部分を見れば偽物かどうかは一目瞭然」という特徴は、ブランド側からは明らかにされていない。

そこで山内氏は、鑑定士キャリア15年を超える林幸史氏に協力を依頼した。

匠の目を持ち、鑑定士の教育も行っている林幸史氏

「当社には全国から年間約160万点近くの中古ブランド品が集まる商品センター(という場所)があり、精度の高い教師データを作成するための画像数は確保できます。ただし、画像が充実しているだけではダメで、本物か偽物かを分類する“匠の目”が必要です。膨大な鑑定経験とノウハウを持つ林は、社内有数の“匠の目”の持ち主ですから、開発プロジェクトになくてはならない存在でした」(山内氏)

開発における具体的な役割について、林氏はこう説明する。

「まず、ルイ・ヴィトンのバッグの本物(基準内)と偽物(基準外)の画像を過去のデータから集めて、AI真贋のシステムを開発するエンジニアに渡し、その画像をAIに読み込ませてもらいました。さらにマイクロスコープで撮影する箇所については、検討に検討を重ねて、数多くあるポイントから絞り込みました。真贋の判定に必要なチェックポイントは、偽物をつくる側へのヒントになってしまう機密事項ですからエンジニアにも伝えていません。AIは本物と偽物の画像を比較して結果を表示してくれますが、最終的には鑑定士の判断が必要な場面もあるでしょう」(林氏)

「AI真贋」の対象ブランドはルイ・ヴィトンを皮切りに、シャネル、グッチなど当社での取引数が多いものから順に拡大。2020年8月に名古屋本店に導入して以降、15店舗に展開している。現在はテスト導入の段階だが、すでに効果が見えはじめているそうだ。

「AI真贋を使うと、鑑定のスピードが新人の3分の1程度に短縮できることが分かってきました。我々は鑑定士の教育に力を入れていますが、鑑定の現場経験の数によってどうしても作業時間に差が出てしまいます。AI真贋はその差をカバーできるツールだと考えています」(山内氏)

鑑定の負担軽減により顧客とのコミュニケーションを強化


もしコメ兵の「AI真贋」が普及した場合、当然「AIが鑑定士の仕事を奪うのではないか」という疑問が湧く。それに対して山内氏は次のように考察する。

「これからAIの精度が上がると、より正確に真贋を判定できるようになるでしょう。ただ、鑑定士の仕事は鑑定だけではありません。我々にとって鑑定はあくまでも作業の一環であり、本来大切にすべきなのはお客様とのコミュニケーションだと思っています。

例えば、買取価格が5,000円だったとして、なぜその価格なのか、このアイテムは世の中でどのような価値があるのかといった説明は、AIにはできません。お客様一人ひとりによって知りたいこと、聞きたいことは異なります。鑑定に集中するあまり、接客をないがしろにしてはお客様の納得感を得られません。

これからの鑑定士には、お客様の表情やちょっとした会話から、潜在的な要望を汲み取れるようなコミュニケーションスキルが求められると考えています。実際に当社では、お客様とのコミュニケーション教育に比重を置くように方針を立てています」(山内氏)

林氏とともに「AI真贋」の開発に携わる、買取の鑑定歴10年あまりの黒柳 嵩氏は、AI導入の効果について次のように話す。

ブランドの背景や歴史を追求するのが面白いと話す鑑定歴10年あまりの黒柳 嵩氏

「お客様に“どうしてこのアイテムがこの価格なのか”を説明させていただく際には、値付けの背景を順序立ててお伝えすることで、納得いただけるケースがほとんどです。そのときには、鑑定士の見解を一方的に伝えるだけではなく、お客様の話に耳を傾けることも重要だと考えています。鑑定という仕事は、文化や経済などいろいろなことにリンクしているため、勉強していけばいくほど奥深い世界です。AIに手伝ってもらうことで、鑑定作業の負担が減る分、より一層仕事の奥深さを追求できるのではないかと思っています」(黒柳氏)

また、林氏も次のように続ける。

「お客様の目的は、もちろん品物をお金に換えることです。ただ、実際はそれぞれの事情をお持ちで、大切にしてくれる人に譲りたいという気持ちが強い方も多くいらっしゃいます。私の接客経験からの感覚ですが、そうした方が大半を占めていると思います。だからこそ、我々も値付けをゴールにするのではなく、丁寧な対話を通してお客様の気持ちを理解したうえでアイテムをお譲りいただくことが重要だと考えています」(林氏)

ブランドの鑑定という専門性の高い仕事に、AIを導入したコメ兵。山内氏によると、今後はAIを使って、さまざまなサービスやビジネスモデルを開発し、事業のDXに挑戦していきたいとのことだ。

日本のリユース市場を、テクノロジーでどのようにアップデートするのか、今後の動向に注目だ。



株式会社コメ兵ホールディングス
https://www.komehyo.co.jp/

取材・文=末吉陽子
撮影=齋藤葵

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WRITTEN by

AI Start Lab 編集部

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