導入事例

「蔦屋家電+」は AIカメラ×アナログで生きたデータを新たな価値に【インタビュー】

AI Start Lab 編集部 2020.10.1
TSUTAYAや蔦屋書店を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)グループの蔦屋家電エンタープライズが手掛ける、次世代型ショールーム「蔦屋家電+(プラス)」。

二子玉川 蔦屋家電のなかにオープンしたこのスペースは、訪れた人の好奇心を刺激する、ユニークなプロダクトが常時展示されている。

プロダクトに触れられるだけではなく、メーカー・つくり手との間接的なコミュニケーションにより、来店者自身も製品開発に参加できるという新しい仕組みが構築されている。

同店では、来店者の行動データを収集するためAIカメラを導入。スタッフが接客を通じて得た意見やニーズとあわせて、つくり手にフィードバックしている。

従来の販売を主とした家電店とは異なり、情報を価値にするという新しいコンセプトの店舗をつくった理由、そしてAIカメラの活用方法について聞いた。

リアル店舗の新しい価値づくりを目指す


「消費行動がリアルからネット空間に移行する昨今。ネットにはない価値でお客様を呼び込むため、蔦屋家電+を企画しました」

――そう語るのは、蔦屋家電+の立ち上げにプロデューサーとして携わった、商品部 商品企画Unit 新規事業チームリーダーの木崎大佑(きざき・だいすけ)さん。


「商品が飽和状態になり、差別化が難しい時代とあって、機能的な価値よりも商品にひも付くストーリーがどれだけ響くか、共感できるかによって購入を判断する方が増えています。

そのため、メーカーも仲介を通さずにお客様に直接に届けるダイレクトコーシューマー(D2C)という考え方によって、より深い顧客接点を持とうとする傾向にあります」(木崎さん)

しかし、オンラインではどうしても限界がある。

やはり直接目で見て触れることで、得られる感覚を頼りに選択したいという消費者が少なくないからだ。

「液晶画面の中にいる人と結婚しようとは思わないですよね」と木崎さん。


「商品を好きになってもらう舞台として、リアルな場所の価値は高く、Eコマースの手が届かない部分だと思います。だからこそ、その価値を追究したいと考えました。

CCCとしても、これまで書店をはじめとした店舗の空間設計を美しくすること、その空間に人が集まって情報発信の場にするという文化があったので、だからこそ生まれた企画ではあります」

蔦屋家電+では、プロダクトを出展するメーカー側の負担はテナント料のみ。販売も可能だが、売上からマージンを取ることはしていない。

その代わり、陳列する商品は一定の基準を設けて厳選している。その基準のひとつが“面白いと思える商品化どうか”だ。

「常に面白い商品を置いておかないと、わざわざ来店しようと思われません。そのため、ある程度審査をして、普段触れることができないようなものを選んでいます。

なかには、開発途中やクラウドファンディング中のプロダクトもあって、まだ購入できないものもあります。

じつのところ来店時に購入してもらえるものが、展示全体の半分くらいしかありません」


実際、取材に訪れたときには、指輪型スマートデバイス「ORII」やキャラクター召喚装置「Gatebox」といった商品などが展示されており、いずれも他店ではなかなかお目に掛かれない面白いプロダクトがそろっていた。

「従来の家電売り場は、売ると買うという行為のマッチングを重視しています。しかし、ここはそうした売り場作りをしていません。

どちらかというと、美術館に近いかもしれません。普通の店舗では、興味がなければ素通りですが、蔦屋家電+では商品の前に滞在する時間も長いところが特徴的。平均すると1アイテム15秒くらいです」

ショップだけど売らなくていい。セールスではないからこそ得られる声がある


現在、店内に陳列できるのは30のプロダクトほどとなっているが、常に埋まっており、出展を希望するメーカーが後を断たないという。

その理由は、蔦屋家電+にメディアとしての価値を見出しているからだ。

「蔦屋家電+はデータや情報の収集に注力しています。ひとつはアナログですが、スタッフの接客により得られた意見をそのまま出展メーカー様にお渡ししています。

私たちはスタッフ個人の売上に評価以上に、話しかけた回数を重視しています。

そのため、売ることを前提にしたセールストークではなく、お客様から意見を貰えるような傾聴寄りの会話を心掛けています。

その会話から得られた意見は、ポジティブ・ネガティブ問わず、SNSのチャットを使って接客後にリアルタイムで送信して共有しています。『いまこんな感想いただきました! 』『へー! 驚きです』というように、とてもフランクなやり取りですね」


過去には、こんなやり取りもあったという。

「犬の脈拍をとって、感情を読み取るプロダクトを展示していたときのこと。

あるお客様が『うちの犬はもう死んじゃったんだけど、これがあったら、もうちょっと気持ちが分かってあげられたかも。犬が散歩のときに立ち止まった理由が、怖いからか他の理由か分からなかったから、分かってあげられたらよかったのに』と仰っていたんです。

こうしたストーリーはデータという枠組みを超えて、ユーザーの心理とも言える貴重な声です。そうした声をフィードバックすると、開発者の方からも『参考になります』とお返事をいただきますね」

プロダクトの横に置かれたタブレットには、製品に込められた思い、デザインのコンセプトなど、なかなか触れることができない情報が、蔦屋家電+のキュレーターの目線でまとめられている。動画やスペックなども表示される

そしてもうひとつ、出展メーカーから価値を認められているのが、年代・性別・滞在時間を計測する「OPTiM AI Camera」の存在だ。

「人間が年代・性別・滞在時間を収集しようとするとなかなか大変な作業になるのですが、ここでは、OPTiM AI Cameraが代わりにこうしたデータ収集を担ってくれています。

負担が軽減される分だけ、スタッフがお客様とのコミュニケーションやプロモーションに力を割けるので助かっています。

このデータは、リアルタイムで出展者に共有されており、マーケティングやプロモーションなどに活用いただいています。プロモーションに関しては、滞在時間で自社のプロダクトが何分程度、見られたかを割り出せるので、広告価値を期待されています」

「OPTiM AI Camera」とは、株式会社オプティムが提供するAI画像分析サービスだ。

店内のカメラ画像から、来店者の属性や行動をデータ化し、可視化できる。この導入にあたっては、当初天井にカメラを設置する案で進む予定だったが、空間に相応しくなくコストもかさむことを懸念。

そこで、タブレット端末を活用して、商品説明を表示させながら内蔵カメラで計測できないかと相談したところ、ベンチャーならではのフットワークの軽さで、オプティムとの共同開発がスタートすることになったという。

また、こうしたデータを扱う上で、一番の不安要素だったプライバシーに関しても、画像データと、そこから生成した中間データを瞬時に削除し、個人情報を含むデータをクラウドに上げないシステムの構築が叶ったことで、安全性を確保できた。

店内にそうした説明が掲示されているが、来店者からの問い合わせはほとんどないという。

AIとアナログの組合せで真に価値あるデータを提供する



AIなどのテクノロジーとアナログはそれぞれ得意不得意があるので、データ収集にあたっては双方をうまくミックスして設計するのが大事だと木崎さんは指摘する。

「AIカメラで50代男性が○分、30代女性は○秒見たといったデータが蓄積されると、ターゲット像が見えてくるので、それだけでも価値があります。

ただし、立ち止まった理由までを知ることはできません。なぜ興味を持ってくれたのか、逆になぜ興味を持ってくれなかったのか、その情報収集を補完するのが接客スタッフの役割です」

逆に、アナログなコミュニケーションでは分からない、人間の深層をデジタルで理解することができるという。

「自分でも言語化できない心理ってあるんです。でも、行動には絶対にそうした心理が現れる。

リアルなお店でふいに立ち止まったりするような意識していない行動こそが、深層部分で関心を寄せているということになります。

これは、リアルならではの反応で、オンラインのショップでは吸い上げられないと思います」

AI×アナログのデータ収集をはじめて1年、少しずつ実を結んだ事例も出はじめている。

「海外だけで展開している空気清浄機を出展して、マーケティングを実施したいというメーカーさんがおり、出展した3カ月間を通して予想以上に評判がよかったことから、日本での発売が決定しました。

プロダクトの開発や販売の意志決定は時間が掛かることがあるので、データが活きる手応えを感じられるまでに時間が必要ですが、確実に役立てていただけていると実感しています」

オンラインにはないリアルだけの価値をAIにできることと、人間にしかできないことは何かを突き詰め、双方が補い合うことで革新的なリアル店舗を生み出した蔦屋家電+。

その取り組みから、リアル店舗のひとつの未来の形を垣間見ることができた。


*取材は2020年3月に行いました。

<店舗情報>
蔦屋家電+
所在地:東京都世田谷区玉川1-14-1二子玉川ライズ S.C. テラスマーケット 二子玉川 蔦屋家電1F
URL:https://store.tsite.jp/tsutayaelectricsplus-futako/

取材・文:末吉陽子
撮影:佐藤裕
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WRITTEN by

AI Start Lab 編集部

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