導入事例

AIを人間が助けることで実現した、ユニークな画像認識AIレジが普及中!【事例取材】

AI Start Lab 編集部 2020.10.15
100種類もの商品と価格を新人スタッフが覚えるのに時間がかかる、袋詰めと会計を同時に行うため、時間がかかり行列になってしまう……。

これは多くのベーカリショップに共通する、レジについての問題だった。

こうした課題を解決すべく開発されたのがAIレジ「BakeryScan(以下、ベーカリースキャン)」だ。

トレイに載せられたパンの画像を一瞬で識別し、金額を表示。それを確認したお客さんがセミセルフのレジで会計をしている間に、店員は袋詰めができるという画期的なレジシステムだ。

画像認識技術をレジ精算に応用する世界初の試みとされ、2019年までに全国でおよそ400店舗、600台が導入済み。その後、さらに導入店舗は拡大しているという。

ベーカリースキャンが、これほど普及している理由には、徹底して現場に寄り添って開発されたプロダクトだから、といえるだろう。

「画像認識の精度が100%にならない」という、AI・人工知能ならではの問題もクリアして実用化に至ったこの製品は、どんな考え方で開発され、ベーカリーにどんなメリットを生み出しているのか。

開発元の株式会社ブレイン代表取締役社長・神戸壽(かんべ ひさし)さんに、兵庫県西脇市のブレイン本社で、その秘密を聞いた。

デモ機を前にする神戸さん。神戸さんはパソコンショップから事業をスタートさせ、数多くのシステム開発を手がけてきた

ベーカリースキャン導入の効果と開発のきっかけ


大手ベーカリーチェーンでも導入がすすむベーカリースキャン。導入前には、複数店舗でのトライアルを経たのち、東京・上野駅の基幹店に導入された。

れまで5台あったレジが3台で済み、レジ担当も10人から5人に、にもかかわらずレジ行列もほとんどできず、売り上げも向上するという結果になった。

この実績から、本格的な導入が決まったという。また、あるベーカリーでは、導入後に売り上げが30%〜40%も上がったという例もあった。

レジ業務の効率化が可能になるベーカリースキャン。開発がスタートしたのはどんなきっかけだったのだろうか。

「開発のきっかけは、簡単に扱えるレジが欲しい、というベーカリーショップを手掛ける外食チェーンからの相談でした」

神戸さんは続ける。

「そのベーカリーショップで実験したところ、商品を30種類並べるよりも100種類並べた方が、単位面積の販売効率が1.5倍上がるというのがわかった。

さらに包装して売るより、包装しないで売った方が3倍も売り上げが良かった。
しかし、レジを担当するアルバイトの教育に1カ月程度かかり、レジの行列のために機会損失も発生していました」

こうした課題を解決するために目を付けたのが、人間と同じように見た目で識別が可能な画像認識技術だった。

同社は、静脈認証技術を過去に開発しており、画像解析での織物の完成品検査を研究していた経験から、パンの識別も画像認識で行おうと開発をスタートさせた。

パンを撮影・認識する様子。半透明のトレイの下から光を当てて、輪郭をはっきりさせた状態で上部のカメラから撮影する

ディープラーニングが使えないベーカリーの事情


画像認識といえば、現在、ディープラーニングの手法を利用することが主流になっている。

しかし、ベーカリースキャンは、ディープラーニングは利用していないという。それにはベーカリーならではの事情があった。

「ベーカリーでは多いところで1週間に2回も新商品を発売するところもあります。

ディープラーニングの手法も実験しましたが、新商品が出るたびに教師データが数百枚も必要になり、とても実用的ではなかった。
そこで、独自に開発した機械学習を使うことにしたのです」

その結果、パンを4個か5個用意して学習させれば、すぐに90%程度の確率で識別が可能になった。

さらに使えばつかうほど、その精度が上がっていくという仕組みも備えている。新商品の登録は、わずか数分で可能だ。

しかし、このパンの画像認識の開発は、多くの困難に直面したという。

「ベーカリーで手作りされるパンは違う種類でもよく似ているものもあり、同じ種類でも形状やトッピングの位置などが少しずつ違うという商品。これをどう識別するのか。この解決には苦労しました」

やがて実験室のなかでは、かなりの精度で識別できるようになったが、実用化に際して、もっともネックとなったのが、AIによる画像認識の識別が100%になることはない、という点だった。

AIを活用する際、識別精度が100%にならないという問題は避けては通れない。

しかも、お金を扱うために間違いが許されないレジで、100%にならないというのは、大きな問題だった。

「そこで発想を転換しました。AIが人間をサポートするのではなく、人がAIをサポートしようと」

ここで神戸さんたちが考えたのが、AIの間違いを人間が訂正するという仕組みだ。

ベーカリースキャンのレジには、タッチパネルのディスプレイがあり、AIが認識できたパンは緑色で、判断に迷ったパンは黄色で表示される。

黄色のパンをタッチすると、横に類似商品の候補が表示され、間違っていた場合は店員が正しいものを選ぶ。

このフィードバックは学習データとして追加され、精度を高めていく。

登録直後は90%程度の識別精度だった新製品も、20回ほど学習すると99%にまで精度を出せるようになるという。

認識に間違いのない場合は緑色で囲まれて表示される。客側のディスプレイにもこのように表示され、商品と金額を会計前に確認できるようになっている

現場で徹底したリサーチを行なって開発


人とAIが作業を分担して100%になるという発想は、現場での徹底したリサーチから生まれたものだった。

ベーカリースキャンの開発は3年かかったというが、その間、ベーカリーに協力してもらい、さまざまな課題を検討した。トレイの上にパンが並ぶ実際の様子を9万枚撮影して、どんな様子でパンがトレイの上に置かれるのかデータを集めた。

店舗での実験では、カメラの高さやさまざまなレジ周辺の環境への対応も調整。トレイ下にバックライトを入れることで認識率が改善することもわかった。

パンのような非定型の物がくっついた時、どこまでが一つの物かを判別する、自動分離の技術も開発。

最初はパン同士が離れていないと認識できなかったが、実際に購入されるパンは、くっついてトレイに置かれることが多く、現場で利用するためには必須の技術でだった。

また、ベーカリーの要望から装備されたのが、客向けのディスプレイ。

画像認識の結果と金額を表示し、会計前に確認できるとあってとても好評だそうだが、もともとは、レジにカメラを付けるにあたって、お客様の顔を撮影していないという証拠の画像を表示してほしいという、実験協力店から要望があったからだった。

画像認識技術はパンから薬、ガン細胞へと対象を広げる


神社の授与品レジは、社(やしろ)形となっている。また、六甲八幡神社の依頼で、画像認識によるおみくじも開発したという

ベーカリーでの徹底した調査から生まれたAIレジは、いま多くのベーカリーで導入が進み、レジの効率化に貢献している。

さらにこの画像認識技術は、薬剤の種類を判定する鑑査装置や食事の識別装置へと対象を広げ、面白いところでは神社の授与品のレジにも応用が広がっている。

神社のお守り類も、パンと同様にバーコードをつけることができないため、会計のミスがあったという。神社から、ベーカリースキャンが使えないかとの相談があり開発した。

さらに、ルイ・パストゥール医学研究センターとの共同研究で、病理医を支援するガン細胞のAI画像診断システムの開発にも着手。

細胞にガンがあるかを判定する病理医の仕事を、画像解析で診断時間の短縮につなげようとする試みだ。

人の目が頼りという仕事は、世の中に本当に多い。それをすぐにAI・人工知能で取って代わろうというのは、まだ難しいのが現状だ。

人間と機械ができることをしっかり切り分けて、協力することで課題を解決するという形は、現実的であり、これからも応用分野がもっと広がりそうだと感じられる。

神戸さんはこう話してくれた。

「AIの活用は、ほぼ画像処理の分野だと思っているんです。だから色々な分野で人間をサポートできるものをつくっていきたいと思ってます」

ベーカリースキャンの使用感は?


編集部ではベーカリースキャンを使っている店舗にも取材を行った。

今回、こころよく取材を受けてくれたのは、兵庫県三田市のパンプキン本店。

地元の人々に25年以上愛されている町のパン屋さんだ。地元の食材にこだわったパン作りにこだわり、特産品の牛肉をつかった「三田牛すきやきパン」などの人気商品が並ぶ。

パンプキン本店の店長・湯井さんとレジを担当されていた小林さん

店長の湯井さんに導入のきっかけを聞くと、今後、地元の働き手が少なくなるのではという心配をしていたところ、ベーカリースキャンを紹介されたから、と答えてくれた。

パンプキン本店で、扱うパンの種類は100種類くらいあり、2カ月に1度、5~8種の新商品が登場するという。多数の種類を覚えるのは大変で、ベーカリースキャンにより、新人が入った時の教育という部分はかなり軽くなったそうだ。

また、レジ業務の負担が軽減された分、お客さんとのコミュニケーションなどに時間を使えるようになったというメリットも。

セルフレジになったことで、レジ店員がお金を触らずに袋詰め作業ができる点は、お客さんにも好評だという。

面白かったのは、レジ店員が慣れてくると、AIが間違いそうな状況を予測して先に手を打てるようになるというお話。

新商品の登録後や、間違いが起こりやすい種類など、AIのくせが把握できてくると、本当に作業がスムーズになったという。もちろん、認識率は回数を重ねれば、よくなっていく。

まさに、人間とAIが助け合いながらともに働いているという現場を見ることができた。


<取材協力>
パンプキン本店
住所:兵庫県三田市南が丘1-50-6
営業時間:7:00~18:30(月1回定休日あり)
駐車場あり、イートインあり
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WRITTEN by

AI Start Lab 編集部

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