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AI・人工知能のビジネス活用の現状とは?製造・小売での活用例も紹介

山際 貴子 2020.10.1
「このままいくと2025年に年間最大12兆円の経済損失が発生する」

――経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」は、企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)へ取り組むことを強く促す危機感に満ちた内容となった。

AI・人工知能はDXの原動力となるデジタル技術となるが、ビジネスでどのように生かすことができるのか。ビジネス活用の現状を見ていこう。

AIがいよいよビジネスの現場に


現在、革新的な技術により、既存の産業構造の変革が起こっている。

AmazonなどAI技術を駆使したネット通販企業の台頭により、Foever21のようなリアル店舗を持つ企業が経営破綻に追い込まれた。Uberはシェアリングサービスをタクシー業界に持ち込み、アメリカでは倒産したタクシー会社もある。

このように異業種から参入した企業が、技術を駆使して圧倒的な競争力を獲得する現象が続いている。

そのため、既存の企業においても、AIなどの新しい技術を使って競争優位を獲得するDX(デジタルトランスフォーメーション)の潮流が生まれた。

多くの企業が新規事業を立ち上げる事業部を創設し、AIやIoT等の技術の導入に取り組んでいる。

最近ではAI導入のハードルも下がっている。

GoogleやAmazonなど、AI導入に早くから取り組んできた企業では、自社で使用してきたAIをサービス化して公開するようになった。

またAIを組み込んだ専用ソフトウェア・サービスも続々と登場している。こういったものを上手に活用すると、AIの学習モデルを自前で作らなくても、AIを導入することができる。

しかし、AI導入の多くがPoC(Proof of Concept)にとどまり、実用化までこぎつけられていないということもよく聞かれる。

これはAIが通常のシステム開発と性質が大きく異なることから発生している事象だ。

AIをビジネス活用する際の壁


AIをビジネス活用する際に、次のようなことが問題になることが多い。

必要なデータが揃わない


現在実用化されているAIは学習するために大量のデータが必要だ。

しかし、必要なデータが揃わないことが多い。また、レガシーシステムの場合は、データが各部門に点在している、紙で業務プロセスを回しているといった理由から、活用できる状態にないことが多い。

経済産業省が発表した「DXレポート」でも技術革新のためにはレガシーの刷新が必要としている。

また、学習用のデータもあればいいというものでもない。

画像や音声であればノイズを消す必要があるし、業務データであればたとえば売上を計上するタイミングや、データが連携されるタイミング等を調整する必要がある。

うまくいくかどうかはやってみないとわからない


通常のシステム開発の場合は、業務の効率化や顧客サービスの向上など、期待する効果が具体的にイメージできる。

一方でAIの場合は、やってみないと期待した効果が出るのかわからないということに注意したい。

そのためPoCを実施して、必要なデータが揃っているのか、効果が見込めるのかを見極める必要がある。

運用後もデータメンテナンスが必要


学習用のデータには、人間が正解をタグ付けするケースが多い。
例えばこの画像から何を読み取ってほしいのか、正解をタグで付けてAIに教える必要がある。

このタグ付けは学習データにも必要だが、そのモデルを使って推論する場合、本番運用後も増えた新しいデータに対しても間違った推論を訂正しなければいけない。

また、ECサイトなど毎日のように商品の入れ替えがあれば、その商品に対してもAIに学習させるためのタグ付けが必要になる。
大変な作業だが、その作業を続けるからこそ競争優位性が高くなるといえるだろう。

こうした問題があることをあらかじめ知っておき、対策を立てることが必要だ。

デジタルネイティブのためAI導入のハードルが低いeコマース



eコマースの分野は、他の産業と異なりビジネスがデジタル化されているため、AI導入のハードルは比較的低いと言われる。

ECサイトの活用例として最近注目されているのが、チャットボットの導入だ。

日本トイザらスでは2000年からEC事業を開始しているが、2017年からLINEアカウントコネクトを利用して、公式LINEアカウントを創設した。

ユーザーはLINEで問い合わせをすることができ、内容によって自動応答か有人対応かを振り分けることにした。自動応答のために導入した「goo Search Solution」は、検索ログをAIが自動で学習し、売れ筋の商品やCTR、CVRの高い商品を自動で上位表示させる機能を持つ。

チャットボットの導入により、問い合わせの応答率が繁忙時に40%を下回る状況だったが、導入後は100%に近付いた。

チャットボットはECサイトだけでなく、企業サイトの問い合わせ対応にも活用できる。比較的簡単に導入でき、効果も得られやすいため、注目を集めている。

AI導入に意欲的な製造業の活用事例



製造業においては、品質向上や効率化のためにFA(ファクトリーオートメーション)に取り組んできた歴史があり、その延長線上としてAI導入に取り組む企業が多い。

導入は中小の製造業にも広がっている。

「パンドミー」「たまごぱん」など約40種類のパンを製造する株式会社オーカワパンでは、需要予測や最適な生産体制・シフト体制にAIを活用している。

顧客のニーズに沿って人や機械をどう最適化するかに課題を抱えており、まずデータ分析基盤を構築し、そのデータをもとにAIが予測や工程計画の作成を行うという2段階で進めている。

最終的には翌日生産する数量を予測し、作る順番や必要とする人員の最適化までAIが自動で行うことを目指している。

需要予測は他の業種でも活用できる機能だ。予測自体はAIを使う以前から統計手法がビジネスシーンで活用されているため、導入のイメージがつきやすい。

また販売データや気象データなど比較的自社のデータや外部から入手しやすいデータで予測ができる。

DX黎明期の小売業での活用例


小売業はメーカーと比較して、営業利益率が低く、AIやIoTの技術への投資も遅れていた。

しかし最近ではコストを抑えて導入することが可能になったため、買い物客の行動を分析して、魅力的な売り場づくりや商品開発に生かす取り組みが増えている。

東京・二子玉川の蔦屋家電にあるショールーム「蔦屋家電+(ツタヤカデンプラス)」では、AIカメラを導入して、来店客の移動や滞留状況、手に取った商品の情報をメーカーに提供し、商品開発に生かしてもらうことを目的としている。

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これは、いままで小売業が持っていた購買行動だけでなく、「買わない」買い物客を分析できるというメリットがある。

こうした非購買行動を分析して、売り場を改善し、品揃えに反映して顧客満足度の向上を図る。

このようなAIカメラは、北海道のドラックストアのサツドラや、九州のディスカウントスーパーのトライアルでも導入されている。

小売店舗の売上向上だけでなく、メーカーの商品開発や既存商品の売上拡大にも効果があると期待されている。

ビジネスシーンでAIを活用しよう


AIは生活者にとっても身近なものとなったが、実際にビジネスシーンにおいて、AIはどのように活用されていて、どういったことが問題となっているかについて紹介した。

  • 既存産業の企業でもAIやIoT活用によるDXが求められている
  • AIを導入する際は、データが揃わない、うまくいくかはやってみないとわからない、といった問題がある
  • さまざまな業種で活用が進んでおり、用途も多様化している

AIならではのリスクもあるが、まずは活用事例を参考にしながらなるべく簡単に労力をかけずに導入することをおすすめしたい。

小さなところから始めることで、知見が蓄積され、さらなる活用につながるはずだ。


画像:Shutterstock
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WRITTEN by

山際 貴子

システムエンジニアとして独立系SI会社等4社を経験し、プロジェクトリーダーとして大規模プロジェクトの開発に携わる。その後、フリーライターとして独立。企業取材、インタビュー、コラム執筆等を中心に活動している。独自の視点から複雑な事象をわかりやすく解説することを得意とする。

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